電験3種の理論科目では磁化曲線について問われる問題が出題されます。磁化曲線とは変圧器の鉄心などの磁性体が磁化するときの磁束密度の変化をグラフで表したものです。
このページでは磁化とは何か?から磁化曲線の見方を解説していきます。
このページの内容が分かると以下のような問題が解けるようになります。
図は磁性体の磁化曲線(BH曲線)を示す。次の文章はこれに関する記述である。
- 直交座標の横軸は、(ア)である。
- aは(イ)の大きさを表す。
- 鉄心入りコイルに交流電流を流すと、ヒステリシス曲線内の面積に(ウ)した電気エネルギーが鉄心の中で熱として失われる。
- 永久磁石材料としては、ヒステリシス曲線のaとbがともに(エ)磁性体が適している。
上記の記述中の空白箇所(ア)、(イ)、(ウ)及び(エ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
磁化とは何か?
まずはじめに磁化とは何か?から解説します。
磁石になる素質のある物質、これを磁性体といいます。この磁性体は磁界の中に置くと磁力を持ちます。この磁力を持つようになることを磁化といいます。
もっと詳しく分かりやすく下の図1のような変圧器の鉄心とそれに巻かれた巻線を例に考えてみます。
変圧器の鉄心は磁性体が使われます。磁性体の内部には図2のようにとても小さな磁石があると考えることができます。このとても小さな磁石は分子磁石と呼びます。
分子磁石は始めはN極、S極の向きがバラバラです。しかし鉄心を磁界の中に置くと、磁界の向きに分子磁石の向きが揃っていきます。
変圧器では巻線に電流を流すと、右ねじの方向に磁界ができます。そのため図3のように分子磁石の向きが揃います。
この分子磁石の向きが揃うことを磁化といいます。
分子磁石の向きが揃うことを磁化という。
磁化曲線とは?
磁化が何かが分かったところで、今度は磁化曲線について考えていきます。
磁化曲線は磁性体の磁化の度合いを描いたグラフとイメージすると分かりやすいです。
磁化は分子磁石の向きが揃うことですが、向きの揃い具合は磁界の大きさによります。磁性体に強い磁界をかければ、図3のようにより多くの分子磁石の向きが揃います。
逆に弱い磁界だと、図4のように揃うものも揃わないものもでてきます。
これをグラフで表したのが図5の磁化曲線です。磁性体にかける磁界は横軸のHで表されます。縦軸のBは磁性体の磁束密度です。これが大きいと磁性体の磁力が強いということです。
磁界がかかっていない状態の0の点から、プラスの向き(図3の矢印の方向をプラスとする)に磁界をかけると、磁性体が磁化されて磁束密度が大きくなります。
しかし磁化曲線をみると、あるところから磁界を大きくしても磁束密度が大きくなりにくくなっていき、最終的には変化がなくなっているのがわかると思います。この変化がなくなることを磁気飽和といいます。
これは分子磁石の向きが揃いきったとイメージすると分かりやすいです。向きが変わる分子磁石が無くなったので、いくら磁界を強くしても磁束密度が大きくならなくなってしまったと言う訳です。
磁界を強くしてもある程度のところで磁性体の磁束密度が変化しなくなる。これを磁気飽和という。
では今度は図3の方向とは逆方向に磁界をかけてみます。
すると磁化曲線は図6のようなカーブを描いていきます。ここでの注意は磁界を弱めていき0にしても、磁束密度が0にならない点です。
磁束密度を0にするには、先程とは逆方向に磁界をかける必要があります。
これは磁界を0にしても分子磁石の向きはある程度揃ったままになるからです。つまり磁力をある程度保つということです。
磁界を0にしたときの磁束密度(図7で示す点)を残留磁束密度といいます。これは磁界を0にしたときにどの程度磁力を保つかを表す値です。
そして更に磁界を逆方向にかけていくと、図8のように磁束密度が0になる点があります。これを保磁力といいます。
ヒステリシスループとは?
続いてヒステリシスループとは何か?を解説していきます。
先程の図6の磁化曲線で、磁束密度がマイナス方向に大きくならなくなった点から、再度プラスの方向に磁界をかけていきます。
すると今度は図9のように磁束密度がプラスの方向に大きくなっていきます。
この図9をみると、磁界の強さと磁束密度の変化は赤線のようなループを描くことが分かります。これをヒステリシスループといいます。
このヒステリシスループの面積は、磁性体を磁化させる際の損失に比例します。この損失はヒステリシス損と言います。
なぜヒステリシス損が生じるかというと、分子磁石の向きを変えるためにエネルギーが必要だからです。
例題を解いてみる
磁化や磁化曲線について分かったところで冒頭の例題を解いてみましょう。
図は磁性体の磁化曲線(BH曲線)を示す。次の文章はこれに関する記述である。
- 直交座標の横軸は、(ア)である。
- aは(イ)の大きさを表す。
- 鉄心入りコイルに交流電流を流すと、ヒステリシス曲線内の面積に(ウ)した電気エネルギーが鉄心の中で熱として失われる。
- 永久磁石材料としては、ヒステリシス曲線のaとbがともに(エ)磁性体が適している。
上記の記述中の空白箇所(ア)、(イ)、(ウ)及び(エ)に当てはまる組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。
(ア)は今まで解説してきた通り、磁界の強さです。
(イ)は磁界を0にしたときの磁束密度の大きさを指しています。そのためこれは残留磁束密度です。磁束密度は磁力の強さと同じ意味です。選択肢では磁気と表現されていますが意味は同じです。よって(イ)は残留磁気です。
(ウ)はヒステリシスループの大きさとヒステリシス損の関係について聞いてきています。ヒステリシス損はヒステリシスループの大きさに比例しますので、(ウ)には比例が入ります。
最後の(エ)は永久磁石はどういうものがふさわしいか?を聞いてきています。永久磁石は変わらず同じ磁力を保つ必要があります。なぜなら例えば他の磁石の近くに置いたら、磁力の向きが変わったり、磁力がなくなってしまうと困るからです。よって残留磁束密度が大きく、保磁力が大きいものが適しています。よって(エ)は大きいが当てはまります。
これらのことから例題の答えは(5)となります。
おわりに
本サイトでは電気に関してこのような初学者でも分かりやすい解説を行っています。
もしこれを解説してほしい!という要望や質問がありましたらお問い合わせかXのDMでご連絡いただければと思います。
コメント