電験3種 各科目の解説
電気事故報告のルール:「直ちに報告」と「30日以内に報告」の判断基準
あなたが将来、電気主任技術者として現場に立ったとき、もし設備で火災が起きたり、感電事故が起きたりしたらどうしますか?
まずは人命救助や事故の拡大防止が最優先ですが、落ち着いた後に必ず行わなければならないのが、国(産業保安監督部)への「事故報告」です。
この報告には「すぐに電話などで知らせるもの(速報)」と「後で詳しく書類で出すもの(詳報)」の2種類があり、事故の種類によって義務が異なります。
試験では「このケースは速報が必要か?」「このケースは報告不要か?」といったことについての問題が出ます。
条文をただ暗記するのではなく、「事故の重大さ」という基準で分類して、本質的な理解を目指しましょう。
電気事故報告の全体像と「2つの期限」
まず、電気事故報告の全体像を把握しましょう。
電気事業法に基づき、電気工作物の設置者(オーナー)には、重大な事故が発生した場合に報告する義務があります。これを定めているのが「電気関係報告規則 第3条」です。
結論から言うと、事故報告には「速報」と「詳報」の2段階のステップがあります。
速報(直ちに報告)
まず事故が起きた際には速報を出す必要があります。いつまでに?誰に?といったことは以下の通りです。
- 期限:事故の発生を知った時から24時間以内
- 方法:電話、電子メール、FAXなど(とにかく早く伝える)
- 宛先:所轄の産業保安監督部長
- 目的:迅速に行政に第一報を入れ、緊急対応や社会的な影響への備えを促すため。
2. 詳報(詳細報告)
速報を出して、事故の復旧をしたあとは詳報を出す必要があります。
- 期限:事故の発生を知った時から30日以内
- 方法:所定の様式(事故報告書)による書面の提出(現在は電子申請システムも主流)
- 目的:事故の根本原因、再発防止策を技術的に詳しく説明し、類似事故の防止に役立てるため。
図解:事故発生から報告までのフロー
実務上は以下のようなフローで事故の対処や報告を行います。
事故現場へ行き状況や原因を確認
事故の影響を拡大させないために応急的な処置を行う。
応急処置を行い、事故の内容が分かり次第直ちに速報を出す。
事故原因の究明や、同じ事故が起きないような対策を考える。
詳しい原因や再発防止策を記載した、詳報を出す。
報告が必要な事故の分類(何を報告するのか?)
電気事故が起きた際の報告の流れを学びましたが、すべての事故を報告するわけではありません。
報告が必要な事故は、大きく分けて以下の4パターンに分類できます。
試験でも「具体的にどんな事故が報告対象なのか」を区別できるかを問われます。
① 人身事故(感電などによる死傷)
電気が原因で人が亡くなったり、怪我をした場合は報告が必要です。
ここで重要なのは「被害者が誰か」と「怪我の程度」です。
- 死亡事故:誰が亡くなっても報告必須。
- 負傷事故:
- 一般人(公衆):治療が必要な怪我なら、軽傷でも報告対象になり得ます。
- 電気作業者:「入院」を伴う場合に報告対象となります。
一般人に被害を与えたとなると、管理が甘く、より大きな事故につながるとみなされます。ですから電気作業者の被害より厳しくみられます。
② 電気火災事故
電気工作物が原因で火災が発生した場合で以下の条件にあたる場合も報告対象です。
- 「工作物にあっては半焼以上」
- 「工作物以外の物件にあっては火災発生(ぼやでも対象)」といった基準があります。
実務上は「電気設備の欠陥や過熱で消防が出動するような火災」が報告対象になるでしょう。
火災は被害が広がりやすく、しかも大きくなりやすい災害です。ですから事故を起こした際はきっちりと報告をするようにルーツ決めがされています。
③ 主要電気工作物の破損事故
発電所のダムが決壊した、主要な変圧器が壊れた、など「供給に大きな支障が出るレベルの破損」も報告対象です。
単に電球が切れた、ヒューズが飛んだ程度では報告しません。「主要な機器」が壊れたかどうかがポイントです。
具体例をあげると、電圧10,000V以上の遮断器、変圧器、コンデンサなどです。
④ 波及事故(供給支障事故)
これが電験三種で最もよく出るキーワードの一つです。
- 波及事故とは自分の設備の故障が原因で、電力会社の配電線を止めてしまい、
近隣の家や工場を停電させてしまう事故のこと。
自分の敷地内だけが停電するのは「構内停電」ですが、一歩外へ迷惑をかけたら「波及事故」です。これは社会的影響が大きいため、厳しい報告義務があります。
よくある勘違い・つまずきポイント
「直ちに」の定義
「直ちに」とは、物理的に可能な限り早く、という意味ですが、規定上は「事故を知った時から24時間以内」と定義されています。試験で「48時間以内」や「3日以内」と出たら間違いです。
「入院」の有無
作業者の感電事故の場合、「感電して病院に行ったが、検査だけでその日のうちに帰宅した」場合は、原則として報告対象の「死傷」には含まれません(入院を伴わないため)。
しかし、一般人(第三者)を巻き込んだ場合は、より基準が厳しくなる点に注意してください。
3. 速報が不要で、詳報だけ必要なケース
ここが試験で狙われる点です。
例えば、「電気工作物の破損事故」の中には、「詳報(30日以内)だけでよい」ものがあります。
- 例:出力以上の発電設備の破損で、供給支障が生じなかった場合など。「緊急性は低い(速報不要)が、技術的な記録は残すべき(詳報必要)」というパターンです。
簡単な確認問題
理解度を確認するために、次の問題を解いてみましょう。
問題1
自家用電気工作物を設置する事業場において、電気主任技術者が点検作業中に誤って高圧充電部に触れ、感電して全治1週間の火傷を負ったが、入院はせず通院治療となった。この場合、電気事故報告は必要か?
正解と解説
答え:報告は不要
解説:被害者は電気作業に従事する者であり、結果が「死亡」または「入院」を伴うものではないため、電気関係報告規則に基づく事故報告は義務付けられていません。ただし、社内の安全報告は求められるでしょう。
問題2
自家用電気工作物の高圧ケーブルが絶縁破壊を起こして地絡し、電力会社の配電用遮断器が動作したため、近隣の住宅一帯が停電した。この場合、報告の期限はどうなるか?
正解と解説
答え:24時間以内に速報、30日以内に詳報が必要
解説:これは典型的な「波及事故(供給支障事故)」です。社会的影響が大きいため、速報と詳報の両方が必要となります。
過去問解説 法規 平成28年 問12 類題
ここでは、電気事故報告に関する典型的な出題パターンを紹介します。
問題文
次の電気事故のうち、電気関係報告規則において、所轄産業保安監督部長へ報告しなければならない事故として、誤っているものはどれか。
- 一般用電気工作物の漏電により、火災が発生した場合
- 自家用電気工作物の破損により、構内のみが停電した場合
- 自家用電気工作物の感電により、作業員が死亡した場合
- 自家用電気工作物の波及事故により、電力会社等の供給に支障を及ぼした場合
- 自家用電気工作物の破損により、構内火災が発生した場合
何を聞かれている問題か?
「報告が必要な事故」と「不要な事故(または報告対象外)」の境界線を理解しているかを問われています。
使う公式・考え方のおさらい
- 報告対象:人身事故(死亡・入院)、火災、波及事故、主要設備の破損。
- 構内停電:自分の敷地内だけの停電は、原則として報告対象外(ただし、破損事故としての要件を満たす場合を除く)。
解き方の手順
各選択肢を判定していきます。
- 選択肢1(一般用・火災):報告必要一般用電気工作物(一般家庭など)であっても、事故報告の規定は適用されます。漏電火災は報告対象です。
- 選択肢2(自家用・構内停電):報告不要の可能性が高い(これが正解候補)「構内のみの停電」は、他者に迷惑をかけておらず(波及していない)、単なる停電であれば報告義務はありません。(※ただし、特高圧機器の破損など特定の条件があれば「破損事故」として報告が必要ですが、単に「停電した」だけでは報告対象になりません)
- 選択肢3(作業員死亡):報告必要死亡事故は無条件で報告必須です。
- 選択肢4(波及事故):報告必要他社への供給支障(波及事故)は絶対報告です。
- 選択肢5(構内火災):報告必要電気工作物が原因の火災は報告が必要です。
答えとその確認方法
答え:(2)
選択肢2の「構内のみが停電した場合」は、それ自体では電気事故報告の要件(人身、火災、波及、主要破損)に該当しません。よって、これが「報告しなければならない事故」としては誤り(報告不要)となります。
この問題から学べること・視点
「停電=事故報告」ではありません。
- 構内停電(迷惑は自分だけ) → 報告不要(基本的には)
- 波及事故(近隣に迷惑) → 報告必要
この「外への影響」の有無が、法規科目での大きな判断基準になります。
まとめ:学習のポイント
電気事故報告は、丸暗記しようとすると数値や条件が複雑で挫折しがちです。
しかし、「なぜ報告が必要なのか?→危険性・社会への迷惑」という視点を持つと、自然と区別がつくようになります。
- 速報は24時間以内、詳報は30日以内。
- 死亡・入院・火災・波及事故は報告のマスト項目。
- 「構内だけ」のトラブルは報告不要な場合が多い。
この感覚を持って、過去問の正誤判定練習を行ってみてください。












コメント