工事計画の届出:事前届出が必要な工事と自主検査の要否

電気主任技術者の業務として、工事計画の届出があります。
これは特定の電気設備を新設したり改造したりする際に、国に届け出をするというものです。

電験3種では「どんな工事のときに届け出るのか?」「いつまでに?」「自主検査は必要なのか?」といった条件を問われる問題が出題されます。結構な頻度で出題されるので、理解、暗記をして得点源にしたい分野です。
しかし細かい数字や用語も多く、なかなか覚えにくいのも確かです。

実は法規科目の題材である電気関係の法律には「リスクが高いものほど、国が事前にチェックする」という明確な意図があります。この記事では単なる数字や用語の羅列ではなく、その意図を理解することで、記憶に定着しやすい解説を行います。


目次

この記事で解説する内容の全体像と結論

まこの記事で解説する内容の全体像と結論

まず、この記事の結論(試験で問われる最重要ポイント)を3つに整理します。

  1. 事前届け出は「30日前」までに: 届出をしてから国が審査を行う期間が30日あるため、工事開始の30日前までに届け出なければならない(工事開始制限期間)。
  2. 設置と変更で届け出の要否が変わる:
    • 設置(新設)の場合:受電電圧10,000V以上なら届出が必要。
    • 変更(改造等)の場合:変更する機器の種類と条件によって届出の要否が変わる
  3. 自主検査も必要: 工事計画の届出が必要な工事は、完了後に必ず「使用前自主検査」を行い、結果を国に届け出る義務がある。

全体のおおまかな流れは以下の通りです。

【工事から使用開始までのフロー】

  1. 工事計画の作成(「こんな高圧設備を作ります」)
  2. 国へ届出(工事開始の30日前まで!)※国が審査(安全か?)
  3. 工事開始
  4. 工事完了
  5. 使用前自主検査(自分でチェックして記録) ※検査結果を国へ届出
  6. 使用開始

まずはこの時系列を頭に入れてから、細かい条件を見ていきましょう。


基礎からの解説:なぜ「届出」が必要なのか?

かみ砕き解説:国の視点になってみよう

法律用語としての「届出」とは、行政(国)に対して「こういうことをしますよ」と知らせる手続きのことです。

もしあなたが国の安全管理担当者だとして、
「家庭用の100Vのコンセントを1個増設します」
と言われたらどう思いますか?

「それくらいなら報告しなくていいよ、電気工事士さんがちゃんとやってくれればOK」と思いますよね。

でも、
「受電電圧66,000Vの巨大な変電設備を新設します」
と言われたらどうでしょう?

「待って! それもし失敗して爆発したら、周りの地域一帯が停電するし大事故になるよね? 工事を始める前に設計図を見せて! 変な設計してないかチェックするから!」

と止めたくなりませんか?

これが「工事計画の届出」の本質です。

  • 影響が大きい工事は「やる前に言え(事前届出)」
  • 影響がそこそこの工事は「やった後に報告しろ(事後届出)」
  • 影響が小さい工事は「報告しなくていい(不要)」

このようにランク分けされるイメージです。

法律上の定義

電気事業法(第48条など)では、事業用電気工作物の設置や変更工事をする場合、その計画を経済産業大臣に届け出なければならないと定めています。

電気事業法 第48条(抜粋・要約)

事業用電気工作物の設置又は変更の工事であって、経済産業省令で定めるもの(特定工事)をしようとする者は、その工事の計画を経済産業大臣に届け出なければならない。

【重要】工事計画の届出はなぜ「30日前」までなのか?(期間の根拠)

工事計画の届出は30日前までに行うルールがあります。試験でもここが問われます。でもなぜ30日なのでしょうか?

理由:国には「審査する時間」が必要だから

法律のロジックはこうなっています。

  1. 事業者が届出を出す。
  2. 国はその内容が技術基準に適合しているか審査する。
  3. もし危険だと判断したら、国は「設計を変えろ(変更命令)」や「工事をやめろ(中止命令)」を出すことができる。
  4. この審査と命令ができる期間として、届出受理から30日間は工事を開始してはならない(工事開始制限期間)と定めている。

つまり「明日から工事したいので今日届け出ます」では国が審査する時間が確保できません。
「国が審査するための30日間の待機時間を確保する」ために逆算して「工事開始の30日前までの届出」が義務付けられているのです。

「届出を出した日から30日以内」ではなく、「工事を開始する日の30日前まで」です。
基準はあくまで「工事スタート日」です。

「設置」と「変更」の違いによる届出ルールの違い

工事計画の届出が必要な設備の基準として「受電電圧10,000V以上なら届出」というのがあります。
これはぜひ覚えてほしいのですが、「新しく作る(設置)」のか、「今あるものをいじる(変更)」のかでもルールが異なります。このあたりを整理していきましょう。

「設置」の場合(設備全体を新しく作る場合)

何もないところに新しい需要設備(工場やビルの電気室)を作る場合、基準はシンプルです。

  • 受電電圧 10,000V 以上の需要設備の設置であれば
    • 事前届出が必要
      需要設備とは電気を使うための設備のことです。需要設備は電圧が10,000V以上なら届出が必要です。
  • 発電所の場合
    • →出力によって届出の要否が変わる
      発電所は「何キロワット発電するか(出力)」で判断されます。
      (※法令改正により数値が変わる可能性がありますが、試験でよく出る目安です。具体的には以下の表のようになります)
発電種別事前届出が必要な目安(出力)
水力500kW 以上(ダム等を伴う場合)
火力(内燃力)1,000kW 以上(ここが頻出!)
風力500kW 以上
太陽光2,000kW 以上

「変更」の場合(今ある設備をいじる場合)

変更の場合はルールが変わります。すでに10,000V以上で受電している設備であっても、すべての変更工事に届出が必要なわけではありません。
「どの機器をどれくらいの規模でいじるのか?」によって判断が分かれます。試験でよく狙われるのは「遮断器」です。

原則:「軽微な変更」なら届出は不要

法律(電気事業法施行規則)では、「軽微な変更」に該当する工事は、工事計画の届出が不要とされています。
試験でよく出る「軽微な変更(=届出不要)」の代表例は以下の通りです。

  • 同等品への取替え
    • 老朽化した機器を、電圧や容量が変わらない新しい機器に交換する場合。
      例:66kVの断路器(DS)や避雷器(LA)、計器用変成器(VCT)を新品に交換するなら届出は不要
  • 電圧や出力の変更を伴わない改造
    • 少し配線を変える、付属装置をつける程度など。

「基本的に性能が変わらない交換工事なら、わざわざ国に言わなくてもいいというのが原則です。

例外:同等品でも届出が必要な「危険な機器」

ここが試験の狙われポイントです。

原則は「同等品交換=届出不要」ですが、事故が起きたときの影響があまりにも大きい機器については、たとえ同等品への交換であっても「軽微な変更」とはみなされず、事前届出が必要になります。

その代表格が、遮断器です。

① 遮断器(CB)の変更(10,000V以上)

  • 条件:電圧 10,000V 以上 のもので、「他の電気工作物(電力会社など)と電気的に接続するためのもの」(受電用遮断器など)
  • 扱い:設置はもちろん、改造・取替えであっても事前届出が必要
  • 理由:これが故障して動作しないと、自分のところの事故が電力会社の送電線に波及し、地域停電を引き起こすからです。「最後の砦」の交換は、国が厳重にチェックします。

② 変圧器(Tr)の変更(超大容量のみ)

  • 条件:電圧10,000V以上で、かつ容量が 10,000kVA 以上 のもの。
  • 扱い:設置・改造・取替えの場合、事前届出が必要
  • 試験の罠
    • 「電圧22,000V、容量5,000kVAの変圧器の取替え」→電圧は基準以上だが、容量が10,000kVA未満なので届出不要
    • 多くの自家用受電設備(工場・ビル)の変圧器はこの「10,000kVA」より小さいため、実は変圧器の交換で届出が必要なケースは稀です。だからこそ試験では「電圧はひっかかるけど容量が小さい変圧器」がひっかけとして出題されます。

    まとめ表:設置と変更の違い

    項目設置(新設)変更(改造・取替)
    対象の考え方設備全体機器単体ごとの判断
    届出が必要な設備受電電圧 10,000V 以上の需要設備主に 遮断器(電圧10,000V以上)
    試験での罠「6,600Vの設置」(高圧)は不要変圧器などは大容量(10,000kVA)以上が対象

    工事計画とセット!「使用前自主検査」とは?

    工事計画の届出が必要な工事(特定工事)を行った場合、工事が終わったらすぐに電気を通していいわけではありません。「計画通りに正しく作られたか?」を確認する試験、すなわち「使用前自主検査」が義務付けられています。

    • 誰がやる?
      • 設置者(オーナー)自らが行います(実際は電気主任技術者が指揮して実施します)。
    • 何をやる?
      • 絶縁抵抗測定、接地抵抗測定、耐圧試験、継電器試験など。
    • どうする?
      • 検査の結果を記録し、保存し、国へ届け出る必要があります。

    昔は国が直接検査に来ることもありましたが現在は規制緩和により、設置者が責任を持って行う
    「自主検査」がメインになっています。
    工事計画の届出が必要な工事 = 使用前自主検査も必要」というセット関係を覚えておきましょう。


    よくある勘違い・つまずきポイントの解説

    Q. 「30日前」って、いつから数えて30日?

    A. 「工事を開始する日」の30日前です。

    × 届出を出した日
    ○ 届出が受理されてから、工事をスタートするまでの期間

    「明日工事したいから今日届け出る」は通用しません。国が書類を審査する期間(約1ヶ月)が必要だからです。もし審査で「この設計は危険だ」と判断されれば、国は工事計画の変更や中止を命令できます(変更命令・中止命令)。

    Q. 全ての工事に届出が必要なの?

    A. いいえ、軽微な工事は不要です。

    例えば、同じ仕様の機器への取り替え(リプレース)や、電圧・出力が変わらない小規模な改造などは、「軽微な工事」として届出が不要な場合があります。

    試験問題で「同等品への交換」という言葉が出たら、「あ、これは届出不要かも?」と疑う視点を持ってください。


    簡単な確認問題

    では簡単な問題を通して理解度をチェックしてみましょう。

    第1問

    次の記述のうち、誤っているものはどれか。

    • (1) 事業用電気工作物の設置工事で、経済産業省令で定めるものは、工事計画の届出が必要である。
    • (2) 工事計画の届出は、原則として工事開始の30日前までに行わなければならない。
    • (3) 工事計画の届出をした工事が完了したときは、経済産業大臣の登録を受けた登録検査機関による検査を受けなければならない。
    正解と解説

    正解:(3)

    解説:

    (1)(2)は正しい記述です。

    (3)が誤りです。工事計画の届出をした工事の完了後に必要なのは、設置者が自ら行う「使用前自主検査」です。「登録検査機関による検査」ではありません。

    (※一部の非常に規模の大きい発電所や溶接検査などでは第三者機関が絡むこともありますが、電験3種の範囲では「自主検査」に関するものがよく出題されます。)

    第2問

    出力 1,500kW の内燃力発電所(非常用予備電源を除く)を設置する場合、工事計画の届出は必要か?

    • (1) 必要である(事前届出)
    • (2) 必要である(事後届出)
    • (3) 不要である
    正解と解説

    正解:(1)

    解説:

    内燃力発電所(エンジン等)の場合、出力 1,000kW 以上 の設置工事は、工事計画の事前届出が必要です。

    1,500kW は基準を超えているため、工事開始の30日前までに届け出る必要があります。


    過去問解説 法規 平成25年度 問2

    最後に過去問を解いて知識の定着を図りましょう。

    問題文

    「電気事業法」及び「電気事業法施行規則」に基づき、事業用電気工作物の設置又は変更の工事の計画には経済産業大臣に事前届出を要するものがある。次の工事を計画するとき、事前届出の対象となるものを(1)~(5)のうちから一つ選べ。

    • (1) 受電電圧 6,600V で最大電力 2,000kW の需要設備を設置する工事
    • (2) 受電電圧 6,600V の既設需要設備に使用している受電用遮断器を新しい遮断器に取り替える工事
    • (3) 受電電圧 6,600V の既設需要設備に使用している受電用遮断器の遮断電流を 25% 変更する工事
    • (4) 受電電圧 22,000V の既設需要設備に使用している受電用遮断器を新しい遮断器に取り替える工事
    • (5) 受電電圧 22,000V の既設需要設備に使用している容量 5,000kVA の変圧器を同容量の新しい変圧器に取り替える工事

    何を聞かれている問題かの整理

    • 工事計画の事前届出が必要な工事はどれか?
    • 電圧(6,600Vか22,000Vか)による線引き。
    • 機器の種類(遮断器か変圧器か)による線引き。

    使う公式・考え方のおさらい

    この問題を解く鍵は、記事で解説した「10,000Vの壁」と「変更工事の対象機器」です。

    1. 電圧の基準:受電電圧 10,000V以上 でなければ、原則として届出は不要(※火薬類製造所など特殊な場所を除く)。
    2. 変更工事の基準(10,000V以上の場合):
      • 遮断器:電力会社からの波及事故を防ぐ「受電用遮断器」の設置・取替えは、届出が必要
      • 変圧器:容量 10,000kVA以上 の大きなものの設置・取替えでなければ、届出は不要

    解き方の手順

    ステップ1:電圧で足切りをする

    まず「10,000V未満」の選択肢を除外します。
    (1), (2), (3) は全て「受電電圧 6,600V」です。10,000V未満なので、設置であれ変更であれ、原則として届出対象外です。
    よって(1), (2), (3) は×(届出不要)

    ステップ2:10,000V以上の選択肢を比較する

    残った (4) と (5) はどちらも「受電電圧 22,000V(特別高圧)」なので、10,000V以上の基準を満たしています。
    次は「機器の種類」と「規模」を見ます。

    • (4) 遮断器の取替え
      受電用遮断器は、電力系統を守る最重要機器です。
      10,000V以上の場合、これを取り替える工事は事前届出が必要と定められています。よってこれが正解候補
    • (5) 変圧器の取替え(5,000kVA)
      変圧器の場合、変更工事(取替え)で届出が必要になるのは容量が 10,000kVA以上 の場合です。
      今回の 5,000kVA は基準より小さいため、届出は不要です。よって(5) は×(届出不要)

    答えとその確認方法

    正解:(4)

    【確認】

    電気事業法施行規則 別表第2において、以下のように規定されています。

    • 需要設備の変更の工事
      • 受電電圧1万V以上の需要設備における、遮断器(他の者が設置する電気工作物と電気的に接続するためのものに限る)の設置又は取替え→届出必要
      • 変圧器の設置又は取替え→容量 1万kVA以上 の場合に限り届出必要

    試験での頻出度・類題で注意するポイント

    • 頻出度:A(非常に高い)「6,600Vは不要」「22,000V(特高)は必要」という大きな区別だけでなく、「特高でも、変圧器の交換は1万kVA未満なら不要」という細かいひっかけがよく出ます。
    • 注意点:「遮断器」は厳しく、「変圧器」は容量次第(1万kVA以上)と区別して覚えましょう。遮断器は事故時の最後の砦だから厳しい、とイメージすると忘れません。

    この問題から学べること

    • 単純に「特高(22kV)なら全部届出!」と思い込むと、(5)を選んで間違えてしまいます。
    • 「対象機器は何か?(遮断器か変圧器か)」を確認する視点が、合否を分けるポイントです。

    勉強法・戦略:法規の「数値」はどう覚える?

    法規科目は数字の暗記が避けられませんが、なぜその数字なのか?という理由付けをすると忘れにくくなります。
    今回でてきた数値でいえば以下を理解しておくとよいでしょう。

    • 10,000V(1万ボルト)
      • 日本の配電電圧(6,600V)を超える、特別な高圧ライン。
        「危険で大事故につながりかねないから、国が口を出すよ」という境界線。
    • 30日
      • お役所仕事の標準的なサイクル。「書類を見て、会議をして、結論を出すのに1ヶ月はかかる」というイメージ。

    このように、無機質な数字に「ストーリー」を持たせて、効率よく記憶していきましょう。

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