保安規程の作成義務:組織が守るべき安全ルールの記載事項

法規の勉強を進めていると、「保安規程(ほあんきてい)」という言葉が出てきます。
その漢字からも分かる通り、これは設備の保安について定めたルールのことです。
電験3種の法規科目では、この保安規程について以下の点がよく問われます。

  • 誰が作成しなければならないのか?
  • いつ届け出る必要があるのか?
  • 中身には何を書かなければならないのか?

法規科目は細かな単語を暗記しなければならず、退屈な分野かもしれません。
しかし電気主任技術者の仕事に密接につながる分野でもあります。
保安規定についての理解も電気主任技術者として働く上で重要になりますので、しっかりと勉強していきましょう。

目次

保安規程とは?組織の「電気の憲法」

結論から言うと、保安規程とは「事業用電気工作物を設置する者(オーナー)が、自分たちの設備の安全を守るために定めた独自のルールブック」のことです。

電気事業法(第42条)では、事業用電気工作物を設置する者に対し、この保安規定を作成して国(産業保安監督部長)に届け出ることを義務付けています。

おさらい:事業用電気工作物とは?
電気事業の用に供する電気工作物と自家用電気工作物の2つです。
詳しくは↓ページで解説しています。

なぜ法律だけでなく「保安規程」が必要なのか?

ところでなぜ保安規定が必要なのでしょうか?
電気については電気事業法という法律があります。これを守れば問題ないのでは?
と思うかもしれません。しかし法律は、「最低限守るべき技術的な基準」を定めているだけです。

工場やビルによって設備の規模、使っている機器、働く人の人数はバラバラですよね。

  • 24時間稼働の工場
  • 平日の昼間しか人がいないオフィスビル
  • 特殊な機器がある研究所

これらすべてを同じルール(法)だけで管理するのは無理があります。
そこで「あなたの設備に合った、あなたたちだけの安全ルール(マニュアル)を作りなさい」というのが保安規程の制度趣旨です。

保安規程は、電気主任技術者が勝手に作るメモ書きではなく、
設置者(社長や組織)が定めて国に約束する公的なルールです。

保安規定の内容や作成義務・届出・変更のルール

前述したように保安規定はメモ書きではなく、公的なルールに則って内容を決めて、管理する必要があります。
以下の太字部はよく試験で問われるので、しっかりと暗記と整理をしていきましょう。

1. 作成と届出のタイミング

保安規程は、電気工作物の「使用の開始前」に作成し、届け出る必要があります。
電気が流れ始めてから「ルールを決めます」では遅いということです。

2. 変更したとき

設備の増強や組織変更などでルールが変わることはよくあります。
その都度、保安規程を変更する必要がありますが、変更した場合は「遅滞なく」変更の届出をしなければなりません。

3. 誰が守るのか?

ここが非常に重要です。法律では次のように書かれています。
電気工作物を設置する者及びその従業者」は保安規程を守らなければならない。
つまり電気主任技術者だけでなく、社長も、工場長も、現場の作業員も全員が守らなければならないのです。
電気主任技術者は、このルールが守られているかを「監督」する立場になります。

手続きまとめ表

項目内容覚え方
対象自家用電気工作物を設置する者一般用(一般家庭など)は対象外!
アクション作成して、届け出る許可(認可)をもらう必要はない(届出制)
時期(作成)使用の開始前スタートする前!
時期(変更)変更後、遅滞なく変えたらすぐ!

【重要】保安規程に定めるべき事項(何を書くのか?)

電験3種の問題で頻出なのが、「保安規程にはどんな項目を記載しなければならないか?」という点です。
これは「電気事業法施行規則 第50条」で細かく決められています。

丸暗記するのは大変ですが、保安規定の目的は電気設備を安全に使用すること。
そして万が一事故が起きた場合でも早期に復旧ができる体制を整えることにあります。

これを意識すると覚えやすくなります。

① 体制と役割(誰がやる?)

  • 電気工作物の工事、維持、運用に関する保安業務を管理する者の職務及び組織に関すること。
  • 電気主任技術者が、保安監督の職務を行う際に、法令や規程を守らない人に対して行う指示に関すること。

② 教育と訓練(スキルアップ)

  • 従業者に対する保安教育に関すること。
  • 災害時の措置のための防災訓練に関すること。

③ 日々の業務(Do)

  • 巡視、点検、検査に関すること。(いつ、どこを見るか)
  • 運転(操作)に関すること。(スイッチの入れ方、切り方など)
  • 記録に関すること。(点検結果をどう残すか)

④ 有事の対応(Emergency)

  • 災害時の措置に関すること。

⑤ その他

  • 保安規程の変更の手続きに関すること。
  • その他必要な事項(図面の整備など)。

図解イメージ:保安規程の構成要素

[組織・人]
誰が責任者? 主任技術者の権限は?

 ↓

[教育]
ちゃんと訓練してる?

 ↓

[運用・点検]
普段はどう動かす? 点検頻度は?

 ↓

[非常時]
事故が起きたらどうする?

 ↓

[記録]
全部の記録を残してる?

よくある勘違い・つまずきポイント

勘違い①:「認可」が必要だと思ってしまう

電力会社(一般送配電事業者など)が定める「託送供給等約款」などは国の「認可」が必要ですが、我々が扱う自家用電気工作物の保安規程は「届出」だけでOKです。

「国にお伺いを立ててOKをもらう(認可)」のではなく、「こういうルールでやりますと宣言する(届出)」イメージです。

勘違い②:一般用電気工作物も対象だと思ってしまう

一般家庭や小規模な店舗(一般用電気工作物)には、保安規程の作成義務はありません。
これらは電力会社が定期的に調査に来てくれる仕組みがあるため、自己責任の度合いが異なるからです。

勘違い③:「遅滞なく」と「あらかじめ」の混同

  • 作成・最初の届出:使用開始前(あらかじめ)
  • 変更の届出:変更した後、遅滞なく

ここを入れ替えて出題されるひっかけ問題が非常に多いので注意しましょう。

簡単な確認問題

では簡単な確認問題を解いて理解度をチェックしてみましょう。

問題1

次の文章の( )に入る語句として正しいものはどれか。

「自家用電気工作物を設置する者は、電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するため、保安規程を定め、電気工作物の( A )に、経済産業大臣に届け出なければならない。」

  1. 設置工事の開始前
  2. 使用の開始前
  3. 使用の開始後、遅滞なく
正解と解説

正解:2. 使用の開始前

保安規程は、その設備を使い始める前(電気が通って運用が始まる前)に国へ届け出る必要があります。「設置工事の前」ではありませんし、「使用開始後」では遅すぎます。

問題2

保安規程を変更した場合の手続きとして正しいものはどれか。

  1. 変更しようとするとき、あらかじめ経済産業大臣の認可を受けなければならない。
  2. 変更しようとするとき、あらかじめ経済産業大臣に届け出なければならない。
  3. 変更したときは、遅滞なく経済産業大臣に届け出なければならない。
正解と解説

正解:3. 変更したときは、遅滞なく経済産業大臣に届け出なければならない。

変更の場合は「事後報告(遅滞なく)」でOKです。また、「認可」ではなく「届出」である点も重要です。

過去問解説 法規 令和5年度下期 問1

ここでは、保安規程に関する典型的な条文穴埋め問題のパターンを紹介し、解き方を解説します。

問題文:法規 令和5年度下期 問1

電気事業法施行規則に基づく自家用電気工作物を設置する者が保安規程に定めるべき事項の一部に関しての記述である。(ア)~(オ)に当てはまる語句の組み合わせを選べ。

  • a) 業務を管理する者の( ア )に関すること。
  • b) 従業者に対する( イ )に関すること。
  • c) 保安のための( ウ )及び検査に関すること。
  • f) 災害その他非常の場合に採るべき( エ )に関すること。
  • g) 保安についての( オ )に関すること。

何を聞かれている問題か?

電気事業法施行規則第50条に規定されている「保安規程の記載事項」の具体的な用語を正確に記憶しているかが問われています。

解き方の手順

  1. (ア)の判定:「職務及び組織」か「権限及び義務」か。
    • 条文では「職務及び組織」です。組織図や役割分担を決めるイメージです。
  2. (イ)の判定:「保安教育」か「勤務体制」か。
    • 従業者に対して行うのは「教育」です。「保安教育」が正解。
  3. (ウ)の判定:「巡視、点検」か「整備、補修」か。
    • 保安の基本アクションは「巡視、点検、検査」のセットで覚えましょう。
  4. (エ)の判定:「措置」か「指揮命令」か。
    • 災害時に採るべきは「措置」です。
  5. (オ)の判定:「記録」か「届出」か。
    • 日々の活動の証跡として「記録」が必須項目です。

答え

  • (ア)職務及び組織
  • (イ)保安教育
  • (ウ)巡視、点検
  • (エ)措置
  • (オ)記録

したがって、選択肢(4)が正解となります。

試験での頻出度・類題で注意するポイント

頻出度:★★★★☆(星4つ)

この「記載事項」を選ばせる問題は、数年に一度のペースで必ず出題されます。
類似の過去問として、平成21年度 問39や、令和4年度 下期 問1(大規模事業者の特例)などがあります。

特に「主任技術者の職務」だけでなく、主任技術者の指示に従う義務」も保安規程に書く必要がある点は、
盲点になりやすいので覚えておきましょう。

この問題から学べること

丸暗記しようとすると「職務?権限?どっちだっけ?」と迷いますが、

  • 「組織としてどう動くか(職務・組織)」
  • 「人をどう育てるか(教育)」
  • 「現場で何をするか(巡視・点検)」

という運用の流れ(ストーリー)で理解しておくと、迷わずに正解を選べるようになります。


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