電気主任技術者の選任①:選任が必要な場所と「許可選任」の条件

電気主任技術者という資格を持つと、事業者(企業やビルのオーナー)などから電気設備の保安や監督業務を受けることができます。
反対に事業者は、自分の持つ工場やビルの電気設備を管理監督する電気主任技術者を指名しなくてはいけません。
指名をすることを「選任」するといいます。

法規科目では「選任」をしなくてはいけないケースや、しなくてもいいケースなどについて細かい条件を理解しているかが問われます。
ややこしいルールですが、「選任」のルールこそが電気主任技術者という資格の存在意義そのものであり、法規科目でもA問題(知識問題)として頻出の分野です。

今回は電気主任技術者の選任が必要な場所の境界線と、資格がなくても選任できる特例「許可選任」について、過去問演習を交えてわかりやすく解説します。

目次

この記事で解説する内容の全体像と結論

まず、この記事の解説することの結論です。

  • 原則: 事業用電気工作物を設置する者は、電気主任技術者を選任しなければならない
  • 例外(選任不要): 一般用電気工作物(一般家庭など)や、ごく小規模な特定の設備には選任不要。
  • 許可選任: 本来は有資格者が必要だが、500kW未満などの条件を満たせば、
    国の許可を得て資格を持たない人を選任できる制度がある。

この記事では、これらのルールがなぜ決まっているのかを掘り下げていきます。


基礎からの解説:電気主任技術者の「選任」とは?

そもそも「選任」とは何か?

「選任」とは、単に「採用する」という意味ではありません。

電気事業法という法律に基づいて、
「この事業所の電気の安全はこの人に任せました」と国(経済産業省)に届け出ることを指します。

電気設備は事故が起きるたときの影響は大きく、広範囲に及びます。しかもその監理には高度な専門性が必要です。
ですから必ずその責任者(電気主任技術者)を置き、その人の監督の下で運用しなければならない。
ということが法律で定められています。

選任が必要な場所(事業用電気工作物)

電気主任技術者が必要なのは、事業用電気工作物を設置する場所です。
ここで「一般用」と「事業用」の違いを整理しておきましょう。

区分定義(イメージ)電気主任技術者の選任
一般用電気工作物一般家庭、小規模な商店など。
(600V以下で受電し、構外にわたる電線路がない等)
不要
事業用電気工作物工場、ビル、発電所、大規模な商業施設など。
(高圧受電、または構内に発電設備がある等)
必要(原則)

一般家庭(一般用電気工作物)に電気主任技術者がいらないのは、電力会社が安全を守ってくれているからです。

一方、ビルや工場(事業用電気工作物)は、自分たちで電気設備を管理・維持する責任があるため、専門家である電気主任技術者の選任が義務付けられています。

一般用電気工作物と事業用電気工作物の違いは↓で解説しています。


「許可選任」とは? 資格がなくても選任できる例外

原則として、電気主任技術者になるには「電験(第1種〜第3種)」の免状が必要です。

しかし、世の中には「電気設備はあるけれど、有資格者を採用するのがどうしても難しい」という事情を抱えた事業場もあります。

そこで救済措置として用意されているのが許可選任(きょかせんにんです。

許可選任の定義

経済産業大臣(実務上は産業保安監督部長)の許可を受けることで、電気主任技術者免状を持っていない人を電気主任技術者として選任できる制度です。

ただし誰でもいいわけではありません。「免状は持っていないけれど、それに準ずる知識や技能を持っている」と国が認めた場合に限られます。またどの事業場も許可選任制度を使えるわけでもありません。

許可選任が認められる条件

許可選任が認められるには、主に以下の2つを満たす必要があります。

① 設備の規模(500kW未満)

対象となる設備は、比較的小規模なものに限られ以下に該当するものです。

  • 最大電力 500kW 未満 の需要設備
  • 出力 500kW 未満 の発電所(地熱発電所などを除く)
  • 電圧 10,000V 以下 の変電所(構内専用のもの)

電験の試験としては、許可選任との条件として500kW未満という数字を絶対に覚えておきましょう。

② 人物の要件(知識と技能)

選任される人は、以下のいずれかに該当する必要があります。

  • 工業高校の電気科などを卒業し、その設備での実務経験がある人。
  • 第1種電気工事士などの資格を持ち、実務経験がある人。
  • その他、十分な知識と技能があると認められる人。

つまり「電気主任技術者の資格はないけど、その工場の電気設備を長年見守ってきたベテランの電気担当社員」などが対象になります。

許可選任のイメージ図

通常の選任と許可選任の違いを図で整理します。

項目通常の選任許可選任
選任される人有資格者(電験免状保有者)無資格者(ただし知識・経験あり)
手続き届出(国に知らせるだけ)許可(国にお願いしてOKをもらう)
設備の規模免状の種類に応じた範囲500kW 未満 が基本

よくある勘違い・つまずきポイントの解説

勘違い①:「許可選任」と「外部委託」をごちゃ混ぜにしてしまう

以上で述べた許可選任の他に、外部委託という制度もあります。一見似たような意味に聞こえますが、全く違う制度ですので混同しないようにしましょう。

  • 許可選任
    • 社員の中から無資格だけど詳しい人を選任すること。
    • 常駐(その場にいること)が原則。
  • 外部委託承認(次回の記事で解説)
    • 社員ではなく、外部の電気管理技術者(個人事業主や法人)に保安管理をお願いすること。
    • 電気主任技術者を選任しない(代わりに委託する)。
    • 常駐しなくてよい(月1回などの点検)。

「許可選任」と「外部委託(承認)」は別物だと区別してください。

勘違い②:「兼任」との混同

「一人の電気主任技術者が、複数の事業場を兼任する(掛け持ちする)」場合も、国の承認が必要です。これを「兼任承認」と言います。

今回解説した「許可選任」は、あくまで「無資格者を選任する」制度の話です。用語が似ているので注意しましょう。


簡単な確認問題

ここまで読んだ内容が定着しているか、簡単な問題で確認してみましょう。

問題1

次の記述のうち、電気事業法の規定に照らして誤っているものはどれか。

  1. 事業用電気工作物を設置する者は、原則として電気主任技術者を選任しなければならない。
  2. 一般用電気工作物を設置する者は、電気主任技術者を選任する必要はない。
  3. 許可選任制度を利用すれば、どのような大規模な工場であっても、実務経験があれば無資格者を選任できる。
正解と解説

正解:3

許可選任が認められるのは、原則として最大電力 500kW 未満の需要設備などに限られます。「どのような大規模な工場であっても」という部分が誤りです。1と2は正しい記述です。

問題2

最大電力 300kW の工場(受電電圧 6,600V)において、電気主任技術者の免状を持っていない従業員Aさんを電気主任技術者として選任したい。この場合、事業者がとるべき手続きとして正しいものはどれか。

  1. 経済産業大臣(産業保安監督部長)に届け出るだけでよい。
  2. 経済産業大臣(産業保安監督部長)の許可を受けなければならない。
  3. 手続きは不要である。
正解と解説

正解:2
免状を持っていない人を選任する場合は、単なる「届出」ではなく、国の審査が必要な「許可」を受けなければなりません(電気事業法第43条第2項)。
また設備規模が300kW(500kW未満)なので、許可選任の対象範囲内です。


過去問解説:平成23年度 法規科目 問1

では、実際に出題された過去問を解いて理解を定着させましょう。
この問題は選任の種類(通常選任、許可選任、外部委託)の違いを理解しているかを問う良問です。

問題(法規 平成23年度 問1

次の a から c の文章は、自家用電気工作物を設置するX社が、需要設備又は変電所のみを直接統括する同社の A, B, C 及び D 事業場ごとに行う電気主任技術者の選任等に関する記述である。ただし、A~D の各事業場は、すべて Y 産業保安監督部の管轄区域内のみにある。「電気事業法」及び「電気事業法施行規則」に基づき、適切なものと不適切なものの組合せとして、正しいものを次の(1)~(5)のうちから一つ選べ。

a. 受電電圧 33 [kV]、最大電力 12000 [kW] の需要設備を直接統括する A 事業場に、X社の従業員で第三種電気主任技術者免状の交付を受けている者のうちから、電気主任技術者を選任し、遅滞なく、その旨を Y 産業保安監督部長に届け出た。

b. 最大電力 400 [kW] の需要設備を直接統括する B 事業場には、X社の従業員で第一種電気工事士試験に合格している者をあてることとして、保安上支障がないと認められたため、Y 産業保安監督部長の許可を受けてその者を電気主任技術者に選任した。その後、その電気主任技術者を電圧 6600 [V] の変電所を直接統括する C 事業場の電気主任技術者として兼任させた。その際、B 事業場への選任の許可を受けているので、Y 産業保安監督部長の承認は求めなかった。

c. 受電電圧 6600 [V] の需要設備を直接統括する D 事業場については、その需要設備の工事、維持及び運用に関する保安の監督に係る業務を委託する契約を Z 法人(電気保安法人)と締結し、保安上支障がないものとして Y 産業保安監督部長の承認を受けたので、電気主任技術者を選任しないこととした。

何を聞かれている問題かの整理

3つの異なる事業場(A, B+C, D)における、電気主任技術者の選任手続きが正しいかどうかを判断する問題です。

  • a: 第3種免状を持つ人による通常の選任(ただし33kV, 12,000kWの設備)。
  • b: 無資格者(第一種電気工事士)による許可選任と、その後の兼任。
  • c: 外部委託承認制度。

解き方の手順

ステップ1:記述 a の判定

受電電圧 33kV、最大電力 12,000kW の需要設備に対し、「第三種電気主任技術者」を選任したとあります。
第三種の範囲は「電圧 50,000V 未満(5万V未満)」かつ「出力 5,000kW 以上の発電所を除く」です。
需要設備であれば、電圧が5万V未満なら電力の大きさ(kW)に関わらず第三種で選任可能です。
手続きも「選任し、遅滞なく届け出た」とあるので、これは適切です。

ステップ2:記述 b の判定

前半部分は最大電力 400kW(500kW未満)とあるので、第一種電気工事士などを「許可」を受けて選任するのは可能です(許可選任)。

後半部分には「その後、C 事業場(6600V変電所)と兼任させた。承認は求めなかった」とあります。
ここが間違いです。

電気主任技術者が2つ以上の事業場を兼任する場合、原則として**「兼任承認」を受ける必要があります。
特に、許可選任されている人(本来の資格を持たない人)がさらに別の場所を兼任することは、
保安管理能力の観点から非常に厳しく制限されており、少なくとも「承認を求めなくてよい」というルールはありません。

したがってこれは不適切です。

ステップ3:記述 c の判定

受電電圧 6600V の需要設備で、電気保安法人に委託し、国の承認を受けて「選任しないこととした」。
これは外部委託承認制度(次回の記事で詳しく解説します)の記述そのものであり、正しい手続きです。
したがって、これは適切です。

答えとその確認方法

  • a:適切
  • b:不適切
  • c:適切

この組み合わせになっている選択肢を探します。

正解は (3) です。

この問題から学べることや得ておきたい視点

この問題は単に許可選任の「500kW未満」という数字を知っているだけでは解けませが、
許可選任されている人は能力が限定的とみなされるため、自由に兼任などはできない(別途承認が必要)
という常識的な感覚(安全サイドに立つ考え方)を持っておくことが重要です。

法規において、この常識的な感覚というのは問題を解くうえでの手助けになることが多いです。
普段の勉強から「普通に考えたらあり得ないよな?」と考える癖をつけておくといいでしょう。


次のステップ:外部委託について学ぼう

今回は、社内の無資格者を選任する「許可選任」について解説しました。しかし、中小規模のビルや工場では、そもそも電気に詳しい社員すらいないケースがほとんどです。
そんな時に利用されるのが、電気保安のプロに管理を丸投げできる「外部委託承認制度」です(先ほどの過去問の記述 c に登場した制度です)。

次回は、実務でも試験でも非常に重要なこの「外部委託」について、許可選任との違いを明確にしながら解説します。

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