電験3種 各科目の解説
電気用品安全法(PSE)と電気工事士法:誰がどの工事を行えるのか
「良い材料を使っても、工事が適当なら事故が起きる」
「腕の良い職人が工事しても、材料が不良品なら火事になる」
電気の安全は、この「物(材料)の品質」と「人(工事士)の技術」の両方が揃って初めて守られます。
法規科目の出題範囲である電気の法律では、この2つをそれぞれ別の以下の法律で規制しています。
- 電気用品安全法(PSE):不良品を世に出さない(物の規制)
- 電気工事士法:無資格者に工事をさせない(人の規制)
この記事では、電気用品安全法とはなにか?「第一種・第二種電気工事士」の作業範囲の違いついて丁寧に解説します。
「電験3種を持っていれば工事もできる?」という疑問にも、法律のつながりから明確にお答えします。
この記事で解説する内容の全体像
まず、今回学ぶ2つの法律の関係性をイメージしましょう。
- メーカーへの命令:「危険な電気製品(PSEマークなし)を売ってはいけない!」(電気用品安全法)
- 工事士への命令:「PSEマークがついていない材料を使って工事をしてはいけない!」(電気工事士法)
このように、2つの法律はガッチリと連携しています。試験ではそれぞれの定義が問われます。
| 法律名 | 規制のターゲット | 合格のポイント(キーワード) |
| 電気用品安全法 | 電気用品の製造・販売 | 特定電気用品(ひし形)と 特定以外(丸形)の区別 |
| 電気工事士法 | 電気工事の作業 | 第一種・第二種・ 特殊電気工事の違い |
電気用品安全法(PSE):「物」の安全ルール
PSEマークとは?「ひし形」と「丸形」の違い
電気製品を買うと「PSE」というマークのラベルが貼ってあると思ったことはありませんか?
これには2種類あり、試験ではこの区別が頻出です。
特定電気用品(ひし形PSE)
構造や使用方法から見て、「特に危険が生じやすいもの」です。
製造・輸入にあたって、第三者機関(国が登録した検査機関)による厳しい適合性検査が義務付けられています。
- イメージ:長時間電気を流しっぱなしにするもの、体に触れるもの、電源供給の根幹に関わるもの。
- 具体例:
- 電線、ケーブル、ヒューズ、配線器具(コンセント)
- 変圧器、安定器
- 電熱器具(電気温水器など)
- ACアダプター(直流電源装置)
【覚え方のコツ】
ひし形(♦)は角があって刺さると痛そうですよね?
だから「危険度が高い=特定電気用品=ひし形」と覚えましょう。
特定電気用品以外の電気用品(丸形PSE)
特定電気用品ほど危険性は高くないものの、安全確保が必要なものです。
こちらは自主検査(メーカー自身での検査)でOKとされています。
- イメージ:完成された家電製品で、コンセントに挿して使う一般的なもの。
- 具体例:
- 電気冷蔵庫、扇風機、電気洗濯機
- LED電球、蛍光灯などの光源
- テレビ、リチウムイオン蓄電池など
電気工事士法:「人」の安全ルール
「良い材料(PSE適合品)」があっても、それを設置する人が間違えれば事故になります。
そこで「電気工事士法」が登場します。
第一種と第二種の違い
電気工事士は電気工事をするための資格です。これには第一種と第二種の2種類があります。
扱える電気設備が異なりますが、分かりやすくいうと以下の分類になります。
【第二種電気工事士】=「一般住宅のスペシャリスト」
- 対象:一般用電気工作物を扱う(一般住宅、小規模な店舗など)
- 特徴:電力会社から低圧(600V以下)で受電し、敷地内に受電設備(キュービクル)を持たない場所の工事ができます。
- できないこと:工場やビルのような「自家用電気工作物」の工事は原則できません。
【第一種電気工事士】=「ビル・工場のプロフェッショナル」
- 対象:一般用電気工作物 + 自家用電気工作物(最大電力500kW未満)
- 特徴:第二種の範囲に加えて、工場や中小規模ビルの工事ができます。高圧受電設備の工事も可能です。
- 注意点:大規模な工場(500kW以上)の工事は、第一種の範囲外です(これらは認定を受けた特殊なケースや、主任技術者の監督下での作業となります)。
| 資格 | 一般住宅(一般用) | 小規模工場・ビル(500kW未満の自家用) |
| 第二種電気工事士 | 〇 | ×(※例外あり) |
| 第一種電気工事士 | 〇 | 〇 |
「特殊電気工事」とは?
第一種電気工事士は電気工事士の1番グレードの高い資格です。しかしどんな電気設備の工事でもできるかといえば、そうではありません。
特殊な知識や技能が必要で、一歩間違えると大事故につながる以下の工事は、特殊電気工事と呼ばれ、追加の認定証が必要です。
- ネオン工事:ネオン管を光らせるための工事。高電圧を扱うため火災のリスクが高い。
- 非常用予備発電装置工事:停電時に動く発電機の工事。
これが失敗すると、災害時に病院やビルの機能が停止し、人命に関わります。
これらは、第一種電気工事士の免状を持っていても、別途「特種電気工事資格者」の
認定証(講習を受けるなどで取得)がないと作業できません。
二つの法律のつながり(ここが重要!)
以上で学んだ2つの法律はセットで覚える必要があります。
というのも電気工事士法には、次のような条文があるからです。
電気工事士法 第7条(電気用品の使用の制限)
電気工事士は、電気工事の作業に従事するときは、電気用品安全法の規定による表示(PSEマーク)が付されている電気用品でなければ、これを電気工作物の設置又は変更の工事に使用してはならない。
つまり、電気工事士は「PSEマークがついている安全な部品を選んで使う義務」を負っているのです。
「安かったからマーク無しの怪しい海外製ブレーカーを使いました」というのは、電気工事士法違反になります。
- メーカーはPSEマークをつける義務がある。
- 工事士はPSEマークつきを使う義務がある。
このダブルチェック体制によって、日本の電気の安全は守られています。
よくある勘違い・Q&A
Q. 電験3種を持っていれば、電気工事もできますか?
A. 原則としてできません。
電験3種は「保安の監督(指揮官)」をする資格であり、手を動かして配線をつなぐ「工事(作業員)」の資格ではありません。
ただし、自分が監督する工場(自家用電気工作物)の中であれば、特例として作業が認められる場合がありますが、一般住宅の工事は絶対にできません。
Q. 「認定電気工事従事者」って何ですか?
A. 第二種電気工事士の「アップグレード版」です。
第二種電気工事士は本来、工場の工事はできません(低圧であっても)。
しかし、「認定電気工事従事者」の認定証を取得(講習などで取得可能)すると、工場の「簡易電気工事(600V以下)」に限って作業ができるようになります。
第一種を取るほどではないけれど、仕事で工場のコンセント増設などをしたい場合に便利な資格です。
簡単な確認問題
問題1
次の電気用品のうち、電気用品安全法における「特定電気用品」として、ひし形のPSEマークの表示が必要なものはどれか。
- (1) 電気冷蔵庫
- (2) 扇風機
- (3) 定格消費電力が150Wのテレビ受信機
- (4) 定格電圧が100V、定格電流が15Aの配線用差込接続器(電源プラグ)
- (5) LED電球
正解と解説
正解:(4)
解説
(4)の電源プラグやコンセント、ケーブルなどは、電気を供給するための基礎的な部品であり、事故時の危険性が高いため「特定電気用品(ひし形)」に分類されます。
(1)(2)(3)(5)は、完成された製品であり、これらは「特定電気用品以外の電気用品(丸形)」です。
一度自宅の電気機器で確認してみると良いでしょう。
問題2
最大電力300kWの自家用電気工作物(工場)において、非常用予備発電装置の設置工事を行う場合、この作業に従事できる資格として、正しいものはどれか。
- (1) 第一種電気工事士免状のみ所有している者
- (2) 第二種電気工事士免状のみ所有している者
- (3) 第三種電気主任技術者免状のみ所有している者
- (4) 第一種電気工事士免状を持ち、かつ特種電気工事資格者(非常用予備発電装置工事)の認定証を受けている者
- (5) 認定電気工事従事者認定証のみ所有している者
正解と解説
正解:(4)
解説
非常用予備発電装置の工事は「特殊電気工事」に該当します。
たとえ第一種電気工事士であっても、それ単体では作業できず、別途「特種電気工事資格者」の認定が必要です。
(1)は認定証がないので不可。(2)(5)はそもそも自家用の高圧・重要設備の工事ができません。
(3)電気主任技術者は工事の資格ではありません。
過去問解説 法規 平成28年 問1 類題
最後に過去問を解いて知識の定着を図りましょう。
問題文
電気用品安全法および電気工事士法に関する記述として、誤っているものはどれか。
- 電気用品の製造の事業を行う者は、経済産業省令で定める区分に従い、所定の時期までにその旨を経済産業大臣に届け出なければならない。
- 電気工事士は、電気用品安全法に規定する表示(PSEマーク)が付されているものでなければ、これを電気工作物の設置又は変更の工事に使用してはならない。
- 第一種電気工事士は、最大電力500kW未満の自家用電気工作物のネオン工事を、特種電気工事資格者の認定証なしで行うことができる。
- 輸入の事業を行う者は、輸入した特定電気用品について、経済産業大臣の登録を受けた者の行う適合性検査を受け、その証明書を保存しなければならない。
- 電気用品の販売の事業を行う者は、経済産業大臣の承認を受けた場合等を除き、PSEマークが付されているものでなければ、電気用品を販売してはならない。
解き方の手順
各選択肢を「人(工事士法)」と「物(PSE法)」の観点でチェックします。
- 製造事業者の届出:正しい。事業開始から30日以内です。
- 工事士の使用制限:正しい。これが2つの法律のつながり(第7条)です。
- 特殊電気工事:誤り。ネオン工事は「特殊電気工事」です。第一種電気工事士であっても、認定証がなければ作業できません。
- 輸入事業者の検査:正しい。輸入事業者も製造者と同じく、特定電気用品には第三者検査が必要です。
- 販売制限:正しい。PSEマークなしは販売禁止です。
答え
正解:(3)
この問題から学べること
「第一種電気工事士は万能ではない」という点が、試験ではよく狙われます。「ネオン」と「非常用発電」を見たら、「おっと、これは特殊スキルが必要だぞ」と反応できるようにしておきましょう。
まとめ
この単元は、複雑な計算がないため、確実に得点源にしたい分野です。
- 「ひし形」の品目をざっくり覚える
- 全部を暗記するのは無理です。
「電線」「コンセント等の配線器具」「変圧器・モーター等の機器」「ACアダプター」といった「電気のインフラ・根幹に関わるもの」をひし形と認識し、
それ以外(扇風機や冷蔵庫などの最終製品)は丸形、という感覚を養ってください。
- 全部を暗記するのは無理です。
- 資格のパズルを整理する
- 「第一種=工場も家もOK」「第二種=家だけ(基本)」「認定=工場の低圧もOK」という図式を整理できるようにしましょう。
- 「軽微な工事」を区別する
- 過去問では、「インターホンの工事(資格不要)」と「配電盤の工事(資格必要)」を混ぜて出題してきます。「電圧600V以下」「ねじ止めしない(差し込むだけ)」などのキーワードに注目してください。
法規科目は文章量が多く、一見難しく見えますが、言っていることは「安全を守るための当たり前のルール」です。
「もし自分が工事をして火事になったら?」と想像しながら学習を進めると、記憶に定着しやすくなります。












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