電気主任技術者の実務②:外部委託承認制度の条件と範囲

電気主任技術者の資格を取ると独立も視野に入ります。その理由の一つが「外部委託承認制度」です。

工場を持つ企業やビルオーナーなどは電気設備を管理する電気主任技術者を指名(選任)しなくてはいけませんが、すべての企業が自社に電気主任技術者の資格を持った社員を持つ訳ではありません。
そういう事業場はフリーランスに依頼するように、外部の資格保有者へ電気主任技術者の業務を委託することができます。この制度が「外部委託承認制度」です。

ただしどの事業所もこの制度を使えるわけではなく条件があります。
電験3種の法規科目でも「どのくらいの規模の設備なら委託できるか?」や「どのような条件が必要か?」について問う問題がが頻繁に出題されます。

特に近年は再生可能エネルギー(太陽光など)の普及に伴い、規制緩和で数値が変わっている部分でもあります。
この記事では、外部委託の全体像から、試験で問われる数値の暗記ポイントまでを整理して解説します。

目次

外部委託承認制度とは?(全体像と結論)

結論から言うと外部委託承認制度とは、

本来は会社の中に専属の電気主任技術者を置かなければならないが、一定規模以下の設備であれば、外部の専門家(個人の電気管理技術者や電気保安法人)に保安管理業務を委託することで、選任しなくてよい(選任したものとみなす)

という特例制度です。
ただしこの制度を使うには条件があります。試験対策として覚えるべき条件は以下の2点です。

  • 対象電圧:高圧以下(7,000V以下)であること。
  • 対象規模:需要設備は2,000kW未満、発電設備は種類によって上限が異なる。

基礎からの解説:なぜ外部委託が必要なのか?

「選任」と「外部委託」の違いをイメージする

原則として自家用電気工作物(高圧受電する工場やビルなど、コンビニなども)の設置者は、電気主任技術者を選任(雇用)しなければなりません。
しかし小さなビルやコンビニ1店舗のために、年収数百万円の電気主任技術者を1名雇うのはハードルが高いです。
(フランチャイズのコンビニ店長などがわざわざ電気主任技術者を雇っていたら経営が成り立ちませんね)

そこで経済産業大臣の承認を受けることで、外部の電気主任技術者に委託できる制度が作られました。
選任と外部委託の主な違いは下の表の通りです。

項目選任(原則)外部委託承認(特例)
雇用形態その会社の従業員として雇う外部の個人事業主や法人と契約する
勤務実態その事業場に常駐(または通勤)月に1回〜数ヶ月に1回訪問点検
緊急時すぐに現場へ急行連絡を受けてから駆けつける(原則2時間以内)
試験での扱いA問題・B問題で出題特に数値や条件が問われる

外部委託ができる「受託者」の条件

しかし誰にでも委託できるわけではありません。委託を受けられるのは以下のどちらかです。

  • 電気保安法人(関東電気保安協会などの協会や、民間の保安法人)
  • 電気管理技術者(いわゆる個人事業主。実務経験を積み、要件を満たした個人の電気主任技術者)

注釈:電気管理技術者とは?

電験3種などの免状を持っているだけでなく、数年間の実務経験を経て国から「外部委託を受けてもいいですよ」と認められたプロフェッショナルのことです。ですから電験に合格してすぐに脱サラをして外部委託を受けよう!というわけにはいきません。

【重要】外部委託ができる設備の範囲(数値の暗記)

また外部委託ができる設備にも条件があります。ここは試験でかなり狙われるポイントです。

まず大前提として、電圧が7,000V以下の設備に限られます。特別高圧で受電する工場などは外部委託ができません。
その上で出力(容量)にも上限があります。

1. 需要設備(電気を使う設備)

需要設備では、電圧7000V以下で、なおかつ2000kW未満の設備が外部委託をできます。
比較的小規模な工場、ビルやスーパーマーケット、コンビニなどが該当します。

2. 発電設備(電気を作る設備)

発電設備も外部委託ができますが、その種類によって条件が変わります。

発電所の種類外部委託できる出力上限備考
太陽電池5,000 kW 未満※2,000kW以上はスマート保安技術(遠隔監視等)の導入が必要
風力2,000 kW 未満
水力1,000 kW 未満ダムを伴うものは除く
火力1,000 kW 未満内燃力(ディーゼルなど)
燃料電池も含む

注意点

ちなみに昔は太陽光も2,000kW未満でした。
しかし再生可能エネルギーの普及促進のため、近年要件が緩和されました。
現在は5,000kW未満まで拡大されていますので、古い参考書を使っている方は注意してください!

よくある勘違い・つまずきポイント

勘違い①:「選任許可」と「外部委託」をごちゃ混ぜにする

前回の記事で解説した「許可選任(資格を持っていない人を選任する許可)」と、今回の「外部委託(外部のプロにお願いする承認)」は全く別の制度です。

  • 許可選任:人がいないから、特例で資格がない社員にやらせる。(非常に限定的)
  • 外部委託:コスト合理化のために外部のプロに任せる。(非常に一般的)

このような違いがあります。
許可選任は制度としてはありますが、条件も厳しいですしこれを採用できるのは結構なレアケースです。
しかし外部委託は一般的に利用されています。ほとんどのコンビニやビルは外部委託をしているはずです。

勘違い②:電圧が高くても規模が小さければOK?

答えはNOです。

電圧は外部委託ができるかどうかの重要なファクターで、7000Vを超える電圧の場合は外部委託ができません。
例えば受電電圧が22kVのスポットネットワーク受電設備などの場合、契約電力が1,000kWしかなくても外部委託はできません。

7,000V以下」は絶対の条件です。

簡単な確認問題

では簡単な問題を解いて理解度を確認してみましょう。

問題1

次のうち、外部委託承認制度を利用して電気主任技術者の業務を委託することができない設備はどれか。

  • (1) 受電電圧6,600V、最大電力1,500kWの工場
  • (2) 受電電圧6,600V、出力3,000kWの太陽電池発電所(遠隔監視装置あり)
  • (3) 受電電圧22,000V、最大電力500kWの小規模ビル
  • (4) 受電電圧6,600V、出力500kWの水力発電所
答えと解説を開く

答え:(3)

解説:

外部委託承認制度の前提条件は電圧 7,000V以下です。
(3)は22,000Vであるため、たとえ出力が小さくても外部委託は利用できません。

(2)の太陽電池発電所は2,000kWを超えていますが、5,000kW未満であり遠隔監視などの要件を満たせば外部委託可能です。

問題2

外部委託承認制度において、同一の事業場内に「需要設備1,000kW」と
「非常用予備発電装置(内燃力)200kW」がある場合、
この事業場は外部委託の対象となるか?

答えと解説を開く

答え:7000V以下なら対象となる

解説:

それぞれの条件を確認します。

  • 需要設備:2,000kW未満が条件のところ、1,000kWなのでOK。
  • 内燃力:1,000kW未満が条件のところ、200kWなのでOK。

  両方の条件を満たしており、かつ電圧が高圧以下であれば対象となります。

過去問解説 平成26年度 法規科目 問3(改題)

最後に実際の過去問を解いて知識を定着させましょう。

問題文

平成26年度 法規科目 問3(改題)
※実際の出題形式を参考に、本記事の要点に合わせて構成しています。

「電気事業法施行規則」に基づく、主任技術者の外部委託承認制度に関する記述として、誤っているものを次の(1)〜(5)のうちから一つ選べ。

  • (1) 外部委託の承認を受けることができる事業場は、電圧7,000V以下のものに限られる。
  • (2) 出力1,500kWの風力発電所は、外部委託の承認を受けることができる。
  • (3) 出力4,000kWの太陽電池発電所は、技術基準適合維持等のために必要な措置を講じた場合であっても、外部委託の承認を受けることができない。
  • (4) 外部委託の承認を受けた場合、電気工作物の設置者は、当該事業場に電気主任技術者を選任しないことができる。
  • (5) 委託契約の相手方は、一定の要件を満たす電気管理技術者または電気保安法人でなければならない。

何を聞かれている問題か?

外部委託承認制度の「適用範囲(電圧・出力)」と「制度の概要」について、正しい知識を持っているかを問われています。

使う公式・考え方のおさらい

  • 電圧リミット:7,000V以下
  • 出力リミット:
    • 太陽光:5,000kW未満
    • 風力・需要:2,000kW未満
    • 水力・火力:1,000\kW未満

解き方の手順

  1. (1)をチェック: 電圧 7,000V以下(高圧)という条件は正しい。
  2. (2)をチェック: 風力発電所の上限は 2,000kW未満。1,500kWは範囲内なので正しい。
  3. (3)をチェック: 太陽電池発電所の上限は、法改正により5,000kW未満に緩和されました(一定の条件付き)。
    したがって、4,000kWであれば承認を受けることができる可能性があります。「できない」と断定しているこの選択肢は誤りです。
  4. (4)をチェック: 外部委託制度の定義そのものです。正しい。
  5. (5)をチェック: 委託先は誰でも良いわけではありません。正しい。

答えとその確認方法

誤っている記述は(3)ですので、正解は(3)。

(※出題当時の古い知識のままだと間違えやすいポイントです。常に最新の数値を意識しましょう。)

試験での頻出度・類題で注意するポイント

 頻出度:★★★(非常に高い)

注意点:特に「太陽光」の数値は法改正で変動しやすいため、最新のテキストかこの記事の情報を基準にしてください。
またB問題では「換算係数」を使って点数を計算し、必要な点検頻度や管理技術者の持ち点消化などを計算させる問題が出ることがあります。

この問題から学べること

単に「外部委託できる」と覚えるのではなく、「設備の種類ごとに上限kWが違う」ことを整理して覚える必要があります。特に太陽光だけ飛び抜けて上限が高い(5,000kW)という特徴は、再エネ普及の背景とセットで記憶に残しておきましょう。

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